最近のもの

「天を衝く」は九戸政実の乱を題材にした、著者の東北三部作のひとつ。わずか5000人で秀吉の大軍に相対したが、それ以前の南部家におけるお家争いも題材にされている。お家争いでは九戸党は争うことなくじっとしているので戦闘シーンは少なめ、その代わりに津軽を操ったりしている。著者の小説はパターンが決まっていて語彙も同じ。これも同様だが面白く読ませる。
時宗」は昔の大河ドラマの原作。北条時宗といえば元寇だが、元寇を扱っているのは最終巻で、前半は時宗の父の時頼が主人公になっていて、宮騒動宝治合戦を通じた北条一族のなかの権力争いを書いている。二月騒動で滅ぼされた時宗の兄の時輔について、実は弟と通じていて脱出しており、高麗や元にわたって元寇に備えていたことになっているのが著者の脚色部分。一般的には、元寇を通じて幕府が弱体化したといわれているが、小説なのでそういうところにはノータッチ。
「実録満鉄調査部」は神保町の店先でたたき売りしていたものを購入。大豆の集荷合戦を通じて満鉄が成長したとか、満鉄調査部はフィールドワーク重視だったとか、様々なエピソードがちりばめられていて面白いが、時系列には整理されていないので少し分かりにくいが、人材が豊富だったんだなということはよく分かる。
蝉しぐれ」は、初めて読む藤沢周平作品だったが、情景描写、人物描写、行間を読ませる書き方がすばらしい。読みながら風景がまぶたに浮かぶ。小節の積み重ねの長編になっているが、各小節の終わり方が絶妙で余韻を残している。内容は、父が藩内の勢力争いに巻き込まれて切腹させられた下級武士の息子が主人公。慎ましい生活の様子、主人公の友人たちとの関わり、剣の修行、幼なじみの娘が殿の側室となって離れていく様子が書かれている。英雄を描く司馬遼太郎のおもしろさとはまた違う、心にしみるような作品。幼なじみが殿の側室になって流産したと聞いた日に泥酔し、起きた朝に「朝の光に似た深いかなしみが胸を満たしてきた」とか、なかなか書けないだろう。
硫黄島に死す」は城山三郎の短編集。戦争関連の作品が多いが、最後の作品は九州への取材旅行の時の車内の様子を題材にしていて、他の収録作品と内容があっておらず、もったいない気がする。戦争関連の作品はどれもそうだが、特に、宝塚航空隊での予科練の訓練、その後特攻隊となって淡路島へ渡る途中で空襲にあい82人が亡くなった様子を書いた「軍艦旗はためく丘に」が読んでいて切なくなる作品。今の中学生と当時の中学生の精神年齢はおそらく違うだろうが、そうはいってもやはり子ども。宝塚歌劇団が童謡を歌ってそれに涙する様子が切ない。