最近読んだ本

城山三郎の「落日燃ゆ」を以前から読みたかったが、この前”よみがえる”にいったら入っていたので迷わず買った(今調べたら、図情の閲覧室に入っていたみたいだ…)。

A級戦犯の中で唯一の文官、廣田弘毅を書いた作品。廣田弘毅は石屋の息子から一高、東大、外務省と進み、外相、首相を務めた。軍部の暴走を押さえ込もうと努力するが、結局は戦犯へと突入してしまい、戰後にA級戦犯として処刑された。
結局は伝記のような小説なので、廣田はほとんど非の打ち所がない聖人のように書かれている。廣田の生き方は「自ら計らわぬ」という考え方で統一されている。弁解しない、自分の立場を有利にしようという運動はしないというような考え方だと思う。外交官時代はそれでも良かったのだが、戦犯として捕らわれ、裁判にかけられてもまったく弁解しなかったため、死刑になってしまった。明治生まれの男の頑固さだと思う。尤も、裁判中に妻が自害し、それまでにも母の死に目に会えず、次男も自殺してしまっていて家族の死にあまりに慣れていた廣田は、死刑を免れて生きようという執念はもうなかったのかもしれない。

自分としては、「自ら計らわぬ」という生き方は潔いけれども、それを貫き通してまで死刑になってしまって良かったのか、自分の見てきた戦争の起きた過程を少なくとも裁判の場で公表しないまま良かったのか疑問が残る。極東國際軍事裁判という場でなく、もっと正当性が高い場であったらあるいは廣田も自分の口を開いたやもしれぬ。

獄中の廣田が家族に当てて書く手紙には誰もが感動すると思う。