暗い夜の記録

暗い夜の記録 (岩波新書)暗い夜の記録 (岩波新書)
許 広平 安藤 彦太郎

岩波書店 1955-09-20
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日本軍占領下の上海、ひそかに「魯迅全集」の刊行に努めていた魯迅夫人である著者が、日本憲兵隊に逮捕され、電気拷問などさまざまな苦刑を受けたのち、傀儡政権秘密警察に引きわたされるまでの二ヵ月半の記録。圧迫に抗して民族の誇りを守りぬいた彼女のこの貴重な体験記は、われわれに厳しい反省を迫ると同時に、誠実に生きる勇気の尊さを教える。

魯迅の妻が、日米開戦直後に上海で憲兵隊に捕まり、拷問を含めた尋問を受けた後にいきなり解放されるまでの二ヶ月半。著者の意志の強さにあらためて感じるところがあった。とともに、このような苦難を乗り越えた中国で10年もたたないうちににこれを上回るような人民抑圧政権が生まれ、大躍進や文化大革命のような想像を絶する悪政が行われたことを考えると、何が正しいのかよく分からなくなってしまう。
著者が魯迅の妻だったから、憲兵隊から引き渡された汪兆銘政権の秘密警察が解放したのだと思う。名もない人であれば、その時点で消されてしまったりしただろう。
巻末に訳者の解説がついており、そこに老いた著者が66年当時、紅旗に「プロレタリア文化大革命の勝利万歳!偉大な毛沢東主席万歳!」と結ばれる寄稿していることが紹介されている。訳者は単純に「(これは)形式的な結語ではなくて、実感のこもったものと受けとってよいだろう。」と述べているが、今から考えればこの寄稿が魯迅妻の本心なのかどうか。