小林多喜二―21世紀にどう読むか

小林多喜二―21世紀にどう読むか小林多喜二―21世紀にどう読むか
ノーマ フィールド Norma Field

岩波書店 2009-01
売り上げランキング : 61761
おすすめ平均

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

蟹工船』の作者、小林多喜二(一九〇三‐三三)。その生き方と作品群は、現代に何を語りかけるのか。多喜二に魅せられ、その育った街・小樽に住んで多くの資料・証言に接した著者が、知られざる人間像に迫る。絵画も音楽も映画も愛し、ひたむきな恋に生き、反戦と社会変革をめざして拷問死に至った軌跡が、みずみずしい筆致の中に甦る。

小林多喜二の評伝だが、発売された頃はちょうど蟹工船ブームの後半頃であり、ブームに乗っかった本と思っていた。今般初めて読んでみたが、それは誤りで、ブーム以前からライフワークとして小林多喜二に取り組んでいたようだ。著述の間にブームが来たことで、むしろ戸惑っているような記述もあった。読んで良かったと思ったのは、多喜二の評伝という点からははずれるが、下記の記述。久しぶりに、本を読んでいて胸をえぐられるような感覚を覚えた。

 『私たちはいかに「蟹工船」を読んだか』に集められた2008年のエッセーコンテストの入賞作に、ネットカフェ部門の、T・Hという23歳の男性の詩がある。その中程にこういう二行が出てくる。
  足場を組んだ高層ビルは 冬の海と同じで 落ちたら助からない。
  でも落ちていなくても もう死んだも同然の僕だ。
 ひとつのイメージで多喜二の作品と現在を見事に結びつけている。わたしたち読者はこのイメージに感心し、もしかしたら表現されている状況に共感し、そして……そして、その先、何かしようとするだろうか。(p162)

自分は何かしているのだろうかと、久しぶりに考えてしまった。