太平洋の試練 真珠湾からミッドウェイまで 上 (文春文庫)

太平洋の試練 真珠湾からミッドウェイまで 上 (文春文庫)太平洋の試練 真珠湾からミッドウェイまで 上 (文春文庫)
イアン トール Ian W. Toll

文藝春秋 2016-02-10
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機動艦隊で真珠湾を急襲する。日本海軍の鬼才、山本五十六の創案した革命的手法により、太平洋戦争の火蓋は切って落とされた。迎え撃つのは米海軍の英才チェスター・ニミッツ―。アメリカの若き海軍史家が日米の資料を駆使して重層的に描く、まったく新しい太平洋戦争。これが「日本が戦争に勝っていた180日間」の真実だ。

2〜3年前に新聞広告で見てから読んでみたいと思っていたが、いつの間にか文庫化していたので購入。
アメリカ側から見た太平洋戦争」ということで、その視点が売りらしい。確かにこれまで日本側から見た戦史ばかり読んでいた気もする。真珠湾攻撃の様子などは、(ルーズベルトはどうあれ)現場は本当に不意打ちを受けていて、その混乱した様子が良く書けている。また、ハルゼーが始めて行ったクェゼリン空襲など、おそらくこれまで誰も重要視していなかった戦いをアメリカ海軍初めての攻勢として詳細に取り上げているが、著者自身も、これらの戦いはこれまで軽視されていたと書いている。
著者が海軍史家だから当然なのかもしれないが、陸戦についてはかなり記述があっさりとしている。真珠湾攻撃に大々的に紙幅をさく一方で、コタバル上陸以降のマレー作戦はマレー沖海戦を除いてほぼスルーされ、いつの間にかシンガポールが陥落している。
また、開戦に至るまでの日本の国内事情を簡単にまとめているが、徐々に軍部が力をつけていく様子をそれなりに捉えているものの、「統帥権の独立」という概念にきりこまず、いわゆる海軍善玉、陸軍悪玉の二面論の域を出ていない。アメリカ人の海軍史家に日本の戦前の解説を求めても仕方ないのかもしれないが。また、「母艦航空」という新語を発明したり、台湾併合が朝鮮と同じ1910年となっているなど、ところどころに粗さがある。訳者は、著者が97式戦闘機と書いているのを訳注で96式艦戦と注釈するのだから、こういう単純ミスも直せば良かったのに。