最近のもの

「贈与の歴史学」は、主に鎌倉室町時代の贈り物のやり取りについて分析されている。テーマはマイナーだが文章が読みやすい。徐々に経済化されていき、AがBに折紙として送ったものが、BがCにその折紙を贈与すると、AはCに現物を贈与する責務が生ずるなど、一般的な債務と債権のような取扱いがされている。また、贈り物としては馬が送られることが多いが、送られた側も困ってしまうので、そのまますぐに別の人への贈り物にしてしまうというのも面白い。
「日本中世の民衆像」は網野さんの講演を本にしたもので、文章は分かりやすく読みやすい。平民が負っていた年貢について改めて考え、米だけではなく鉄や海産物なども年貢として扱われていたなど面白い。一方で職人は、朝廷や寺社につながってその役を果たす代わりに年貢を負わない存在だったらしい。
「日本の路地」は各地の被差別部落をめぐるルポ。著者は中上健次のように被差別部落を「路地」と言いかえている。自らが大阪の路地出身であることを元に、国内各地の路地をめぐっているが、この都市のどこどこに路地があり、そのルーツは何々だと詳細に記述しているのは、ある種の悪趣味さを感じないでもない。触れられたくない現地の人の心情を逆なでしていないか。著者が育った大阪の路地の様子が生々しく書かれている。
「王政復古」はかなり分厚い中公新書で、王政復古に至るまでの慶応三年の経緯が詳細に記述されている。土佐が、大義名分論、武力倒幕論で揺れ動いているなかで、薩摩が土佐をいいように利用しながら王政復古まで突き進んでいった様子がよく分かる。改めて確認すると、第二次長州征伐が失敗してから1年の間に、大政奉還、王政復古までいってしまうのだから、当時の通信事情の中でのその1年の激動っぷりは想像を絶する。
「秀吉と海賊大名」は、最近明智光秀本能寺の変の裏には足利義昭がいたと発表した三重大学の教授が書いたもの。ただ、今回発表された書状については、2011年のこの著書にも既に書かれている。秀吉と光秀は、それぞれ三好家、長宗我部家とつながりがあり、長宗我部勢力が衰退するのにあわせ、光秀の勢いも衰えていったのだとか。伊予の河野家が長宗我部家に滅ぼされたという通説に対して反駁したり、後書きでも、豊臣秀吉の惣無事令の存在について疑問を呈するなど、一般に言われている通説に対して異を唱えるスタイルで全体が著述されている。自らの思いや感情が先に立っているように思える。
朝鮮戦争」は、朝鮮戦争をテーマとした小説で、北朝鮮の南進から仁川上陸、中国軍参戦、停戦までが良くまとめられている。中国軍の文字通りの人海戦術の悲惨さが良く分かる。最後に内灘闘争が出てくるのが唐突感があるが、内灘闘争を題材にしている小説など今どきなかなか読めないのでこれも貴重。