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「遠い崖11」は台湾出兵をめぐる諸事情について書いている。大久保が北京に渡って清国と交渉する様子、英国の在清公使であるウェードが仲介して賠償金を引き出すまでが丁寧に紹介されている。征韓論問題で弱体化した政府が、不平士族の勢いをそらすために台湾出兵に突き進んだ様子もわかる。サトウについては、彼が神道について研究していたことが紹介されており、古代の祝詞について、賀茂真淵本居宣長平田篤胤を引用しながら研究している様子がわかる。日本人でも理解が難しいものを読みこなすサトウの理解力、日本語力がすごい。
「遠い崖12」は、明治8年から10年にかけてサトウが再び賜暇でヨーロッパに帰っているときの様子を紹介している。ヨーロッパでは頻繁に大陸旅行に出かけ、フィレンツェマールブルクに滞在したりとリフレッシュしているが、その合間でも勉強を欠かさない。また、イギリスでは法廷弁護士の資格を取るための勉強に取り組んでおり、勤勉なサトウの様子がわかる。ヨーロッパからの帰りでは鹿児島に立ちよっており、そこで西南戦争の勃発を目の当たりにすることになる。長崎から鹿児島までの移動も、長崎から茂木まで歩き、そこから船で牛深、阿久根まで移動しており、興味深い。
「遠い崖13」は、サトウが鹿児島で西南戦争勃発に遭遇した後、西郷軍の後を追うように人吉、八代へ移動し、長崎から横浜まで戻るところから始まる。鹿児島では苗代川を訪れ、朝鮮から連れてこられた人たちの暮らしぶりにも関心を持っている。東京では勝海舟のもとを訪ね、西南戦争について話もしているが、幕末から交流のある西郷に思い入れがあったようだ。サトウにとっては、やはり幕末の7年間がもっとも充実していた時期で、その後は、公務はこなしつつも政治に深入りしなくなり、その分関心が神道の研究や古書の収集、旅行案内執筆のための地方旅行に移っているようだ。
「遠い崖14」は最終巻。西南戦争が終わってから、公務で朝鮮に行ったり、来日している朝鮮人と交流したりするサトウの動きが紹介されている。明治15年に三度目の賜暇で帰国中にバンコク領事を告げられ、やがて日本に公使として戻るためにそれを受け入れているが、実際に日本に戻るには、さらに南米、タンジールを経る必要があった。宮仕えの身は、いつかそのように割り切らなければならないときがくるんだろうなと思う。14巻全体を通して、著者の文章の読みやすさ、明晰さが光る著作。