最近のもの

「最後の戦犯死刑囚」はオーストラリアの戦犯裁判で処刑された西村中将について。シンガポール攻略の際に近衛師団を率いたものの、その後予備役になっていた中将が、自身の記憶もないようなマレー半島作戦時代のオーストラリア兵士処刑問題の責任をとらされて処刑されるのが理不尽といえば理不尽。本当に責任をとるべきだったのは誰だったのか。そういったことを、処刑に立ち会った教誨師の日記をもとに解き明かしていく。囚人一人一人に丁寧に向き合い、死刑の執行の際には立ち会い、記録を密かに残した教誨師はすごいと思う。
「密着最高裁」は新聞記者が最高裁の最近の判例を紹介する本。お気軽に読めるが、夫婦別姓の問題に対する女性最高裁裁判官の意見を紹介したり面白い。
「廃市・飛ぶ男」は福永武彦の短編集。表題にもなっている「廃市」は、運河が町の中を流れる町で学生時代の一夏を過ごした男が当時を思い出すもので文章が美しい。また「未来都市」という作品は、町の中心から電波が発信され、住民の全ての負の感情がなくなるというユートピアを書いていて動物農場を思わせる。
「ミルクと日本人」は、明治以降の牛乳の普及の様子が丁寧に書かれている。芥川龍之介の実家は築地で搾乳業を営んでいたりとか、野菊の墓伊藤左千夫錦糸町付近でやはり搾乳業を営んでいたりしたらしい。次第に都心では乳牛の飼養がしづらくなるとともに、衛生基準の制定により、ある程度の設備が必要となったことから、徐々に分業が進んでいったようだ。今の仕事にも関係がある話で面白かった。
ナチスの戦争」は、副題にもあるとおり第一次大戦が終わってから東西ドイツが建国されるまでの間のことを書いている。戦争終結までの話もそうだが、ドイツ本土での悲惨な敗走体験がドイツ国民共通の認識となり、自分たちが被害者であるというような意識が産まれたという戦後ドイツについての指摘が興味深かった。近代的な産業国家が、自らの首都まで攻め込まれ、首脳陣が軒並み自殺するなり捕縛されるまで戦い続けたのは第二次大戦のドイツだけ。一度始めた戦争を止める仕組みがなかったのがその原因だとか。